移植成功にあたっての母親の言葉
まず、概ね順調とはいえ手術後もカテーテル感染などによる発熱等
種々問題も無かったとはいえず気の抜けない日々が続きまして、ご
支援をいただいた皆様へのHP上でのご挨拶が大変遅れたことをお詫
び申し上げます。
陽佑の移植手術は12月24日、PM6:00より始まり翌25日AM2
時半に終了。6つもの臓器を移植して頂き陽佑が未来へ歩み続ける
チャンスをいただくことができました。これも皆様のご支援あって
のこと。本当にありがとうございました。
奇しくも主人がチリを出発しマイアミのコンドミニアムへ到着した
のが同日の朝の6時過ぎ。その約1時間後に、まるで主人が到着す
るのを待っていたかのようにドナーが現れたとの電話連絡が有りま
した。「落ち着け!落ち着け!」と自分に言い聞かせながら、「し
かし、何をどうすればいいのか?」。ただ、陽佑の身一つを病院に
連れて行けば良いだけなのですが、あたふた、意味もなく右往左往
しておりました。
多臓器移植は最低でも10時間、過去の外科手術で癒着が起こってい
るとその修復のためさらに時間がかかり20時間近くかかることもあ
るとのことでしたが、陽佑の移植手術は癒着も少なく、非常にスム
ーズに進み、我々の心配をよそに、わずか8時間半で終えることが
できたとのことです。
ドナーは6ヶ月の男の子だったそうです。マイアミの中心部からわ
ずか北へ30分程の所でドナーが現れたらしいのですが、距離的にも
近いという事はそれだけ臓器の状態がよかったとのこと、また、臓
器の大きさが計ったように陽佑の体にあうものだったとのことです。
一方、陽佑は肝臓悪化に伴い脾臓が悪くなり血小板の数が極端に下
がりいつ体のいかなる部分から出血しそれが致命傷になってもおか
しくない危険な状態だと言われつつも幸い大きな出血を起こすにい
たらず、まだ体力が残っており、この大手術に耐えることができた
のです。
アメリカ人が一年中で家族そろって一番幸せなひと時を過ごすであ
ろうクリスマスイブの12月24日に子供を失ったドナーのお子さ
んのご両親の気持ちを考えると、去年の6月に陽佑を失いかけ半狂
乱になりながら「ようすけ!!!ようすけ!!!」と声が出る限り
絶叫しながら陽佑を病院に運んだその時の自分自信の状況が思い起
こされ、手放しで臓器をいただいたこと、移植手術が成功したこと
を喜ぶのもとても気が引けます。
しかし、ドナーとして提供する決心をしてくださったご両親が、き
っと自分の子供の臓器がレシピアントの子供の命を助け、その子の
体の中で生きつづけていると信じてくださっているに違いないと思
いますので、その気持ちを大切に受けとめ、陽佑にはドナーの子と
2人分、12月25日が第2の誕生日として人生を大切に強く生き
ていくことを教えていきたいと思います。
手術直後の経過は順調で、術後わずか5日目12月29日にICU(集中治
療室)を卒業し、一般病室に移る事ができました。しかしその後、
胃の接合部からの出血がなかなかとまらなかったり、カテーテル感
染症を起こし、2度ほど40度近い高熱出し、2本あったカテーテ
ルを除去し、新たなカテーテルを入れることになったりとはらはら
しましたが、毎週2回行なわれる人工肛門からの内視鏡検査でも拒
絶反応の兆候は認められず、先生も目を見張るほどの多臓器移植で
は異例の早い回復を見せ、1月15日に退院、家庭での治療に移行す
ることができました。
現在は家庭で免疫抑制剤など十数種類の薬を処方しながら治療し週
2-3回通院し血液検査と内視鏡検査を受けております。
本人も新しい命をもらい、体がずっと楽になったからか、手足をば
たばた、エネルギーが有り余ってるぞ!という感じでまるで生きる
喜びを表現するかのようにワーッ!ワーッ!と大声をあげたり、ア
ハハ・・・アハハ・・・と無邪気に笑ったり、、、、子供が笑うの
は当たり前の事なのですが、その当たり前の事がとてもうれしく、
本当に生きるチャンスを与えていただいて良かったと心の底から思
います。
移植前は少しでも私の姿が見えないと火がついたように絶叫し、寝
ている時以外はコアラのようにピッタリと私の体に貼りついていて、
祖母があやしてもだめで、ましてや知らない人を見るとすぐに泣い
たものですが、今は私が側にいなくても平気で誰にでも笑いかける
ようになりました。
こんな小さな赤ん坊でも、やっぱり手術前はこのままでは死を待つ
しかない自分の体の状態を察し、本人もとってもとっても不安だっ
たんだな、辛かったんだなと思うと、、、思わず涙がこみ上げてま
いります。
移植前は先生方は私どもを安心んさせるためかあまり悲観的なこと
はおっしゃらなかったのですが、後から聞けば、陽佑は今まで手術
してきた子供の中でも一番血小板の数が少ない方で、もう1-2週間
が遅れると非常に危険なことになっていただろうとのこと。今更な
がらよくここまで持ちこたえてくれたと陽佑の生命力の強さを感じ
ます。
いただいた臓器は陽佑の体内にて徐々に機能を回復し、TPN(中心静
脈栄養点滴)から脱却することができましたが、まだ口から満足に
物を食べることはできません。
現在経管栄養(おなかに穴をあけ胃に直接つながれたチューブから
特殊なミルクを22時間かけて点滴)にて主に必要な栄養を摂り、少
しずつ少しずつ口から流動食を食べさせる訓練をさせております。
排泄は大腸の手前の小腸の一部を対外に出した人工肛門を設置しそ
こから行っています。
人工肛門はそこからの排泄量を監視することによりいただいた消化
器官が正常に機能しているかを見てゆくことができますし、小腸移
植のもっとも大きな問題である拒絶反応を早期発見するため小腸内
部への内視鏡検査に必要なため、今後2年間は人工肛門を維持した
まま経過を観察してゆくことになります。また、小腸の移植の場合
は他の臓器より拒絶反応のリスクが格段に高いため、拒絶反応のコ
ントロールのため手術後は1年単位のスパンでマイアミに滞在し移
植医のコントロール下に置かれることを薦められますが、大きな拒
絶反応の兆候がみられず順調であれば早ければ手術後半年後には日
本に帰れるのではないかと期待しております。とはいえ、帰国後も
人工肛門を閉じるまでの2年間は長期生存のための要注意期間です
ので、最善の注意を払い、いただいた命を守ってゆきたいと考えて
います。
“陽佑に未来を!、おいしいものを腹いっぱい食べさせてやりたい
”と、「陽佑を救う会」のメンバーが立ちあがってくださり最初は
小さな小さな支援の輪だったものが、日本だけでなく世界へ広がり
大きな善意の輪となり広がり、数万人にもおよぶ方々よりのご支援
が陽佑をここまで導いてくださいました。
当初、陽佑が口から食べれるようになる日が本当に来るの?・・・
と夢のように思っておりましたが、今、夢じゃなくなりつつありま
す。本当に、奇跡のようです。
まだまだこの段階で100%陽佑は大丈夫だとまだ言い切れる段階では
なく我家の戦いは続きますが、ひとつの区切りとして、1月29日に
陽佑と瑠南の一回目の誕生日を、絶望の中でなく本当に明るい希望
の光に包まれながら迎えることができたことに、皆様に心より感謝
の言葉をお送りしたいと思います。
本当に本当に皆様ご支援頂きましてありがとうございました。
大橋由江
父親の言葉
奇跡は「起こる」ものではなく、信じる心が「起こす」ものなのだ
と思います。
陽佑の移植に至る道程を振り返ると、偶然や運のよさに見えたよう
なことも、今となっては、一つ一つ、実は命の大切さを感じ陽佑の
境遇に共感していただきご支援いただいた本当に多くの方々のあた
たかい「思い」が、全てを支えてくれたということがよくわかるの
です。
忙しいお仕事や家事の合間募金活動の大変な準備、運営を引き受け
てくださったコアメンバーのみなさま、9月の残暑厳しい中あるい
は10月の冷たい雨の中、街頭に立って声を嗄らせて呼びかけていた
だいた支援者のみなさん、そして私どものよびかけに答えて募金を
寄せていただいた本当に数多くのみなさま、千羽鶴を願いをこめて
折ってくれた子供たち、、、、資金的な面だけでなく、日本中、い
や世界中の多くの方から寄せられた多くの励ましがなければ我々は
ここまでたどり着けることはできなかったと思います。
みなさまの善意のご支援に本当に感謝の言葉もありません。本当に
本当にありがとうございました。
そして、クリスマス・イブというアメリカの人たちが家族がそろっ
て最も楽しみにしている日にもかかわらず、最愛のお子さんが脳死
になられたという悲しみのどん底にある中、脳死からの臓器提供と
いう決断をされた「どこのどなたか知ることを許されない」ドナー
のご両親に私どもの心よりの感謝と尊敬の念を捧げたいをと思いま
す。
アメリカの社会では子供の脳死からの臓器移植には社会的な理解、
コンセンサスが醸成されているとはいえ、ご両親には我々が想像も
できない葛藤があったのだと思いますが、自らの絶望の中で他人の
希望を思いやるというなんという決断!我々夫婦も陽佑を失いかか
けたあの夜を思い出し、もし我々がそのご両親の立場であったら?
と、胸の張り裂けそうな思いにかられました。
現在日本で議論されているように、自分で意志表示のできない脳死
小児からの移植に関しては多くの問題があることは私も十分承知し
ております。その是非に関しては、おそらく、いつまでたってもだ
れもはっきりと答えを出せることはできないでしょう。
しかし、死に行く息子を救うため日本ではほとんど前例のない小腸
移植実現の可能性に賭けてアメリカに渡った家族がいたこと、脳死
となった最愛の我が子からの臓器提供により同じような幼い死に行
く命が助かるのであればという犠牲の信念を貫いたドナーのご両親
がいたこと、そして名前も顔もお互い知らないこの2つの家族が運
命の糸で結びつけられ、クリスマス・イブの夜に生後11ヶ月のこの
ままでは死にゆく一つの命が救われたこと、これは紛れもない現実
なのです。だれが信念を貫いたこれらの家族を責めたり非難したり
できましょうか。
本来移植はドナーの側にとっても、レシピアントの側にとってもき
わめてプライベートな問題であるべきなのだと思います。日本の脳
死からの移植の是非の論議や臓器移植法改正の議論では、賛成反対
お互いに論点を押し付け合ったり中傷しあったりするのではなく、
レシピアントとなった人(今後ならざるおえない人)やその家族の
経緯や思い、そして臓器提供された家族の経緯や思い、あるいは臓
器提供をされなかった家族の経緯や思いなどを、それぞれの家族の
あくまでもプライベートな事柄として尊重してゆき、その個々の家
族のプライベートな決断(臓器提供するしない、移植を受ける受け
ないのいずれも)が尊重されるような社会のフレームワークを作り
出してゆく前向きな議論になることを私どもは期待するものです。
最後に、我々にとって「奇跡」であったことが、これからは、陽佑
と同じように短腸症で命を失いつつある子供たちにとってより実現
性を帯びた「現実の救い、希望」となるように願うものです。
そのために、まず、陽佑をしっかり健常者に近いレベルにまで元気
に回復させることが我々の使命と心得ておりますし、また、それ以
外に日本での移植医療の発展のためになにかできることがあれば、
我々夫婦は微力ながら何かお役に立てないかを考えてゆきます。い
ままで私どもに皆様からいただいたご支援へのせめてものご恩返し
として。
大橋之歩