腕の中の陽佑の顔色は見たこともないような白さだ。本当に白い。体温がだんだん下がっているのがわかる。ほほに平手打ちをし必死で「陽佑!陽佑!陽佑!」何度も何度も呼びかけるが、目を閉じたまま反応が無い。呼吸がかすかになっている。 家内は錯乱状態。自分の膝もがくがく震える。
「俺は父親だ。4ヶ月前になったばっかりの新米の父親だ。まさか?失うのか陽佑を?とにかく俺は父親だ、しっかりしろ!しっかりしろ!」心のなかで何度も自問自答する。
無意識のうちに陽佑を立て抱きにしたままマウス ツー マウスの人口呼吸を狂ったように繰り返す。(まったくセオリー無視。とにかく息をさせなきゃと無理やり自分の息を彼の肺にねじ込んでいた。)
救急病院まで車で僅か15分の時間が、何時間にも感じられる、、、
私ども夫婦は結婚してからなかなか子供ができず、半ばあきらめかけていました。チリに家内と赴任してみると、カトリック信者の多いこの国では子供はなにものにも代えがたい存在であるようで、日本の両親以上にチリの人たちは心配してくれ、「なんであきらめるの?」と彼らに背中を押される形で不妊治療をチリで開始しました。幸いにもよいドクターに巡り合い、卵巣嚢腫や子宮ポリープの手術、なん日も続く痛いホルモンの筋肉注射、流産、妊娠後は子宮頸管(頚管)無力症や母体の肝臓障害による早産の恐れ、、、といったさまざまな困難を乗り越え、1月29日に未熟児ながら双子 = 長男 陽佑 (ようすけ)、長女 瑠南 (るな)を出産することができました。
一度に二人、それも男女の組み合わせなんて!何度もくじけそうになりながら苦しい不妊治療を耐えてきた家内を神様を見放しはしませんでした。
38才にして夫婦2人の気楽な生活から双子を抱えとたんにあわただしくなった生活の変化に右往左往しながらも、二人の成長を楽しみ、幸せを胸いっぱいに感じながら私たちは日々を過ごしておりました。
そのささやかな幸せの日々もつかの間、生後4ヶ月になる陽佑を突然襲ったのが腸捻転という不運でした。一時は本当にこの子を失うのではないかというほどの危篤状態でしたが、6回の手術などの医師の必死の努力により息子は一命をとりとめることができました。しかし、しかし、、、、神様は息子と我々夫婦に過酷な試練を与え賜うたのです。
息子は小腸の全部と大腸の半分を失い、もはや一生自分の口から食物を摂り生きてゆくことが許されない体となっていました。
息子は現在、細菌感染を防ぐために30cm以上もの長さのカテーテル体内に入れられ、心臓の近くの静脈から栄養点滴を受けて命を永らえています。
この延命方法には、カテーテルから細菌が進入し敗血症などの感染症にかかるリスクがあり、また長い期間直接血液に高カロリーの栄養点滴を行うために肝臓に負担がかかり重度の肝臓障害を起こしやすく、多くの場合これらのいずれかの問題のために、成人するまで生存できる可能性は非常に低いという医師の説明です。
「自然の摂理に逆らってもうけた子供。本来はこの世に出てくるくることのなかったその子の病苦は私の責任。」と自分を強く責めるばかりで、声もかけられないほど苦しんでいる家内。
そして私自身も、息子が一生口から満足に物を食べることができないということを考えると、食事の度に自分が口からものを食べていることにさえ罪悪感を覚えました。
私たちは絶望の淵に深く落ち込んでおりました。
小腸移植という可能性がないわけではない!
希望を求めて私たちは必死で可能性を調べ始めました。腸内細菌をコントロールするためにリンパ系が複雑に入り組んだ小腸の移植は、提供された臓器への拒絶反応が出ることが多く非常に難しい手術であり、成功率が40-50%というのが定説。また日本では術例が非常にすくなく、ほとんど成功例がないという現実が浮き彫りに。再び失意の底へ。
そこへ、知らせを聞いたマイアミに住む友人から吉報が届きました。
「マイアミ大学は北米の最先端の臓器移植の拠点のひとつ。そこにいる知り合いの日本人のドクターが小腸移植のスペシャリストだ。」 なんという偶然でしょう。神様は絶望と希望のはざまで私たちを弄ぶかのようです。
さっそくそのドクターと話をしてみると、「この3年で小腸移植の成功率は飛躍的に伸びている。すでに一か八かの博打ではなく、リスクはもちろんあるが、治療の選択肢のひとつとして十分検討するに値するものです。」との力強い言葉。
「ただし、保険の利かない外国からの移植患者の場合は莫大な費用がかかる。」
その費用とは手術とその前後の入院費などの移植関連費用で約1億円という我々の想像を超えた膨大な額であり、一介の会社員の私が工面できる額ではありません。
お金でこの子の未来の可能性が開けるかもしれないのに、、、そうこうするうちに陽佑の状態が悪くなるかもしれない、、、憔悴しきっていたところに多くの友人、知人たちが協力を申し出てくれ、息子の移植手術実現のための募金活動を行う「陽佑を助ける会」を発足していただきました。
陽佑を知らないみなさんにも陽佑を知ってもらいたい。そして、私どものささやかな願いを皆さんに共有してもらいたい。
「普通の子供のように、おなかいっぱいおいしいものを食べさせてやりたい。」
「野原を思いっきり走り回らせてやりたい。」
「そして、立派な大人に成長させてやりたい。」
皆様の善意の募金を心より、心よりお願い申し上げます。
陽佑の父
大橋之歩